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まさか、そんな。
コンビニエンスストアの明かりを目指して、女はひた走った。ホームを、踏切を、道路を、歩道を、ただひたすらに。トレンチコートの裾を翻し必死の形相で突進してくる女を、擦れ違う誰もが避ける。ガッガッと、ヒールがコンクリートを荒々しく叩く音が、静まり返った深夜の町に響いた。
深夜のコンビニは意外に人が多い。しかし、長く黒い髪を振り乱し、倒れこむように入店した女に、客の多くがその場から逃げるように立ち去った。 女は切れる息を整えもせず、よろよろと壁際の棚に近寄ると、一冊の雑誌に手を伸ばした。誰もが一度は目にしたことがある、大衆向け週刊誌である。様々な見出しの踊る目次を至近距離で暫く凝視したあと、女は、とある一ページをおもむろに開いた。こくり、と女が喉を上下させる。
紙面では、太く大きなゴシック体が、不幸な事故を伝えていた。
"期待の若手騎手、落馬負傷! 復帰は絶望的か?!" "18日の京都6R(12)ライトニングサンダーに騎乗予定だった若手騎手A騎手は、17日の京都4Rで落馬負傷。右足を損傷し、復帰は絶望的――"
女が雑誌を持つ手が、震えだした。しかし女は、雑誌から目を離そうとしない。顔面蒼白になった女の眼から、一滴、涙がこぼれおちた。その雫は、雑誌の一ページを濡らし、黒く丸い染みを作る。染みは徐々に広がっていく。堪え切れずこぼれた嗚咽に気づいた店員に止められるまで、女はそのページから目を離さなかった。
コンビニを追い出された女は、空を仰いだ。空には細い細い、新月に近い三日月が浮かんでいた。空は、いつもより光の量が少なく、暗い。女は、泣いた。誰にとがめられることもなく、ただ、只管に。
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